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『ベイツモーテル』美人母とサイコ息子の哀しい物語

Netflixで『ベイツモーテル』を観ました。

これは、2013年から2017年まで放映されたアメリカのTVドラマで、ヒチコックの名作品『サイコ』の主人公ノーマンが人格形成するまでの少年期を描いたもの。

超マザコンのノーマンが恐ろしい殺人鬼になっていく過程を、あの『チャーリーとチョコレート工場』で貧しくも健気な少年を演じたフレディ・ハイモアが、見事に演じきっています。

そのサイコパス・ノーマンを誕生させる原因にもなる、息子を溺愛する美しい母親を演じるのは、映画やドラマで活躍するヴェラ・ファーミガ。

生真面目な少年と、ちょっと淫乱なところもあるけれど、常に息子のことを考える母親・・・この2人の演技とそれをキャスティングした手腕がなければ、この心に残る作品はできなかったでしょう。

また、それ以上に優れているのが、このドラマのテーマです。

人は誰もが人に影響を与え、また与えられます。

エキセントリックなこの母親が息子のためと思いとる様々な行動は、結果的に息子を自分から離れられないようにしてしまい、最後はノーマンを自分と息子の二重人格者にしてしまいます。

その一方で、ノーマンとは父親違いの兄ディランは、同じ母親を持っていながら、普通以上にバランスのある性格の持ち主です。

しかも、ディランの父親は母の兄という非道徳的な出自の秘密があり、そのことを知ったディランはいったんは自己嫌悪に陥りますが、最後は母や異母弟、実の父に対してまでも救済の手を差し伸べるのです。

ノーマンよりはるかに異常に育つ可能性がありながら、そうならない兄ディラン。

常軌を逸した母親であったとしても、それを冷静に見ることのできるパーソナリティを持った息子であれば、2人の関係の中でサイコパスは生まれなかった。

母親の異常性と、それを真に受けてしまう息子とのマッチングこそ怪物を生む土壌なのだとも読み取れます。

50回4年間にわたって放映されたシリーズの最終回は、ノーマンが好意を抱いていた女の子を殺して、車ごと水に沈めるシーン。その傍らには、ノーマンの妄想から生まれた、もうひとつの人格である母親が。

「いつまでも一緒にいるのよ」という言葉に、ノーマンはうっとりとした安らかな表情になり、母の胸に顔を寄せるのでした。

お互いを思いやるところから始まる、この異常愛。

誰もが陥る可能性があるようにも思いました。

ハラハラドキドキの恐ろしくも哀しい『ベイツモーテル』でした。

ベイツモーテル